大人になってからピアノを始める方の間の前に高く大きく立ちはだかるのが「楽譜が読めない」という壁です。
始める前にも「楽譜が読めないし」と二の足を踏む方が多い中で、勇気を出していざレッスンに通い始めても「やっぱり楽譜は読めない」と落ち込まれる方は多いでしょう。
だから、巷では「楽譜が読めなくても大丈夫!」とか「楽譜が読めなくてもピアノが弾けるようになる!」とか、そういった事を謳っている教室もちらほら目にします。
しかし、楽譜を読まずして弾けるようになった方に共通する事は、結局のところ「その曲しか弾けない」というゴールなのです。
弾きたい曲の楽譜を手に入れても、先生に手取り足取り教えてもらわないと弾けるようにならない、楽譜さえ読めれば自分の力で弾けるのに、そういったじれったい思いに悩まされる事になってしまうのです。
そこで今回は、大人になってからピアノを始めるひとでも、楽譜を見ながら演奏できるようにする為のトレーニング・訓練方法を紹介していきます。
大人は皆「楽譜は読める」
「楽譜が読めない」と悩む方は多いと述べましたが、実はこの悩みは少し”ズレて”いるのです。正確には「楽譜を見てピアノで弾く事ができない」という事。
そう、大人の方は皆さん楽譜が読めるのです。 「楽譜を読む」という事に関しては、まず読み方を勉強します。
真ん中のドの場所を覚えて、そこからひとつ上がれば「レ」、もうひとつ上がれば「ミ」といった具合に覚えるので、数えれば読めるという事なのです。
だから、大人のピアノ初心者の方の中には、新しい曲に取り組む際に、まず音名ルビを振る事から始める方もいらっしゃいます。
音をひとつひとつ数えて「読んで」その音名を振っていくといった具合に。
しかし、そういった方に共通のお悩みが「楽譜が読めないからフリガナを振ってしまっていつまで経ってもすらすら楽譜をそのままに読むことができない」というもの。
しかし、よく考えてみてください。
フリガナを振る事ができるという事は、その方は既に楽譜が読めているのです(特定の音だけかもしれませんが)。
あとはすぐに読める音を増やして、楽譜を読む為の速度を上げていくだけなのです。
この認識、「楽譜が読めない」から「楽譜を見てすぐにピアノで弾く事ができない」に正すところが楽譜が読めないと悩む方々のスタートラインになるのです。
この認識を変えるだけで、ウソみたいに「楽譜を見てピアノで弾く事ができる」ようになります。
楽譜を見ながらピアノで弾けるようにするための7ステップ
それではいよいよ実践です。
ここでは7つのステップに分けて「楽譜を見ながらピアノで弾けるようにする」レッスンをしていきます。
ステップ1:ルビ(フリガナ)を振るのはストップ
まず、最初にやるべきこと、それはルビ(音名のフリガナ)を振るのをストップする事です。
唯一許されるのは、例えばいついつまでにこの曲を弾けるようになりたい!と期限付きで取り組んでいる曲がある場合です。
その場合は、この訓練よりも、その曲が弾けるようになる事の方が優先順位が高いので、ルビを振っても、何をしてもOKです。
ステップ2:音を「音名」ではなく「高さ」で捉える
ルビを振るのを止めたら、今度は音を「音名」ではなく「高さ」で捉えるように意識を変えていきます。
とても分かりやすい動画があるのでご紹介します。
この動画の先生もおっしゃっていますが、楽譜に書かれた音符は、上の方へ行くに従って「高く」なります。
そして、ピアノの鍵盤上では、右の方に行くに従って「高く」なります。
こんな初歩的な理論、もう分かっているよ、と思われるかもしれません。
しかし「楽譜がスラスラ読めない」とか「初見で弾けない」と悩まれる方の多くは、音の高さの相関性ではなく、「えーと、この音は『ファ』だから、『ファ』はどこだっけ…」と、その音しか見ずに鍵盤上で音探しを始めてしまいがちです。
その前に登場した音が「ファ」よりも低い「レ」ならば、楽譜上では、音符は上の方に書かれます。
そして、鍵盤上では右の方に存在するという理論になります。
音名とピンポイントな位置で捉えようとするのではなく、曲の流れの中で、音の高低がどのように変わっていっているか、楽譜をより図形的に捉える方がずっと大事なのです。
「さっき弾いた音よりも高ければ右の方、低ければ左の方、ちょっとだけ高ければちょっとだけ右、すごーく低ければかなり左」というアバウトな認識でも、パッと手が自然にその方向へ動くようになればこちらのものです。
ステップ3:目と声と指で「楽譜で示された音」を探してみる
ルビを振るのを止め、音名でひとつひとつ音探しをするのも止め、アバウトな「高低」で鍵盤上の位置を掌握できるようになったら、次にする事は「目と声と指」で「楽譜で示された音」を探すトレーニングです。
例えば楽譜に「ド」と書かれていたら、声に出して(そして可能な限り正確な音程で)「ド」と言いながら、「ド」の鍵盤を弾きます。
他の音も同様です。
もし先生に協力してもらえたり、誰かとペアになりトレーニングできたりといった環境が整っていれば、フラッシュカードのような要領で、右手、左手、ト音記号とヘ音記号、それぞれでどれだけ速く反応できるかという訓練をするのも良いでしょう。
慣れてきたら、1音だけでなく、2音、3音続けてチャレンジしてみるのも良いです。
ステップ4:目と指で「楽譜で示された音」を探してみる
ピアノを実際に弾くときに、メロディを歌いながら弾く人はいませんね。
また、ピアノは単旋律の楽器ではなく、左手で伴奏、右手でメロディを弾く、あるいは他のパターンでメロディと伴奏を1人で全て担う楽器ですから、全ての音を声には出せません。
今度は、声にだして音名を歌いながらではなく、無言で「ステップ3」のトレーニングをします。
ただ、頭の中ではきちんと音名を唱えて正しい音程で歌うような気持ちで弾くのが良いでしょう。
ステップ5:手元を見ずにピアノを弾く練習
ここまで来たらいよいよ佳境です。
今度は、手元を見ずにピアノを弾くトレーニングをします。
パソコンキーボードのタッチタイピング(ブラインドタッチ)のような感覚です。
ピアノにもパソコン同様、所定のポジション的なものはあるのでしょうか。残念ながら、ございません。
それは、曲によって、所定の位置が異なってくるからです。
ただ、曲ごとに決まる「所定の位置」、あるいは曲の中でここ部分ではここが「所定の位置」になるというポイントはあります。
ピアノにおいて手元を見ずに弾く練習の最初の一歩だけご紹介します。
手元を見ずに弾くオススメの練習
- ドレミファソラシドシラソファミレド
- ドミソミド・ドファラファド・ドミソミド・シファソファシ・ドミソミド
この2つを、手元を見ずに弾けるようにする。
所定のポジションは右手の場合は「ド」に親指、そこからひとつずつ指を置いていき「ソ」が小指になるように構えます。
左手は「ド」が小指、「ソ」が親指です。
まずは「隣り合った音」や「所定のポジションから大きく外れない音」を手元を見ずに弾くところからトレーニングしていきます。
ちなみに、どんなにピアノが上手な人でも「跳躍」と呼ばれる、音と音の高低が大きく離れているような場所は手元を確認しながら弾いています。
完全に手元を見ずにどんな曲でも弾けるという人は、プロでも実はとても少ないのです。
ステップ6:簡単な単旋律譜をとにかく「初見」で弾きまくる おすすめ練習曲・楽譜
さて、ここまで色々と物理的なトレーニング方法を紹介してきましたが、ノウハウが分かったところで、仕上げとして簡単な単旋律譜面をとにかく「初見」で弾きまくるというトレーニングをしていきます。
おすすめの教材ですが、最初は簡単な童謡などが良いです。
ドレミファソラシド 8つの音で弾ける やさしいメロディ いろいろな楽器で楽しめる!
知っている曲を、あえてピアノで初見で弾いてみる事によって、パズルのピースをはめていって完成形が見えてきた(聞こえてきた)時に、正解なのかどうかも分かりやすいですし、達成感を得る事ができます。
知っている曲はもう十分というレベルまで到達したら、音大受験生などが使用している「新曲視唱」という、初見で歌を歌う試験項目の練習教材を使うのがおすすめです。
学生の新曲視唱ドリル 音大受験のための毎日の確認
音大受験用だからといって恐れる事はなく、色々な単旋律が盛り込まれており、長さも短めなので、初見でピアノを弾くにはうってつけの練習教材です。
ステップ7:簡単な両手奏譜をとにかく「初見」で弾きまくる
片手での初見練習がある程度形になってきたら、今度は両手での「初見」にチャレンジです。
ゆっくりで大丈夫ですので、楽譜を見たまま弾く、という努力をしましょう。
こちらもやはり童謡などから始めるのがおすすめです。
すぐ弾ける かんたんピアノ伴奏付 こどもうた130 ~みんないっしょに♪うたおう! ~先生お役立ち!
慣れてきたら、トンプソンやバーナムなど、ピアノの初心者向けの教材で初見の訓練をすると良いでしょう。
トンプソン
バーナム
まとめ しんどい期間が無いと上達しないという残酷さを理解すること
我々大人はつい「楽な方」へと工夫しがちです。
楽譜にルビを振るという行為は、その象徴的なものです。
子どもは、いちいちルビを振るよりも早く、楽譜を見たままにピアノで弾けるようになってしまいます。
まだ文字を書くという事を習得しきっていない子どもたちにとっては、ルビを振る行為の方が、楽譜に慣れる行為よりも遥かに面倒だからです。
しかし、大人にはその能力が十分に備わっているため、つい「ルビ打ち」という楽な行動に出てしまうのです。
そこをぐっとこらえて、自らを苦境に追い込むところから「楽譜を見たままにピアノで弾けるようになる」訓練はスタートします。
最初はしんどいですが、この訓練によって身につく事は今後のピアノライフを必ずや豊かで楽しいものにしてくれるでしょう。
ぜひ、がんばって練習してみてください。
以上「【大人のピアノ】手元を見ないで楽譜を見ながら演奏するコツ練習方法」でした。